精神科医みそのれいの「失敗しない男選び」

男選びに失敗しまくる貴女のために

奥村君が1番にのし上がった理由

4年という長い年月を東京の娼年のいちばんで駆け抜けた山口君の功績は言葉に尽くせない。私は山口君と出会えたことに感謝する、などというレヴェルでなく、山口君と出会うために私は生まれてきた。今ではそう確信している。


つくづく男女の関係にならなくて良かったと思う。


ところが、そうこうするうち、嵐のように奥村君が登場した。去年の4月だ。あの時日本はコロナ騒動で緊急事態宣言となり、私を含め医療従事者はいつ自分が感染するかわからない恐怖に戦々恐々としていた。そんな時にいきなり登場した奥村君に教育する担当を着けることが出来なかった。


それが出来るのは、あの時山口君しかいなかったのだ。


山口君は奥村君の教育を引き受ける条件として、最初、奥村君に何も説明せず試合させて欲しいと言った。駆けっこでも木登りでも何でもいいから奥村と試合をしたい。それで決めたいと言ったのだ。私はその意味を即座に理解したので承諾し、奥村君に指示した。


大金を稼ぎたいなら私のいう通りにして。


そして奥村君はいう通りにしたのだ。水道橋駅でふたりをランデヴーさせ、二人はそのままウオーミングアップに移行し、まず2000メートル全力疾走の競争をした。そのゴール地点は何とコンクリートの壁。奥村君がそれを知ったのは直前100メートルかそこらだった。山口君はもちろんそれを知っていた。


奥村君はゴールがコンクリートの壁と認識した瞬間、すぐ後ろに山口君が迫っているのを感じながら、ある判断をしなければならなかった。最後まで山口君を抜かせないため失速せずコンクリートに激突するか、失速して山口君に抜き去られるか、である。


奥村君が瞬間的に決断した選択は前者。失速しない方だったのだ!これには後で聞いた私も恐れ入った。


彼らくらいのレヴェルになれば、衝突を回避するにはどこでブレーキをかけねばならないかを、ほぼ正確に判断できるものである。奥村君はそのラインを超えても失速させなかった。そして、すぐ後ろにいた山口君はそれに気づき、つまり奥村君が壁に激突する方を選択したことを瞬時に感じ取り、短パンのゴムに手をかけ、斜め後ろ方向へのベクトルで奥村君の巨体をなぎ倒し、自分が下敷きになる形で終了したというのだ。


これはどういうことを意味するか。


事情を何一つ知らぬまま、初対面の山口君とかけっこ競争をすることになった奥村君が、そんな競争でも全力を出し、最後のデッドヒートでは大怪我する可能性をものともせず、失速しない選択をした勝負根性に、山口君は敬服し、山口君は山口君で、自分の肩をもぎ取られるかも知れないという危険な状況で瞬時にベクトル計算し、力を分散する方向に引っ張るという神業を披露したのである。奥村君への尊敬の念をその瞬間に感じなければ成し得ないモーションである。つまり山口君はそういう状況を故意に作り、奥村君と自分自身がどういう反応をするかで選択決定をしようとしたのである。おそろしい子。


こんなふうにして山口君が身を徹して選んだ奥村君だからこそ、山口君が4年かけて築いた金字塔をたった10ヶ月で打ち砕いたのである。